三河考古定例会

NO.1　平成17年3月定例会
2005・3・10　前田
火の見櫓の考古学−バリエーションの背景にあるものー

火の見櫓

１　火の見櫓の歴史
　明治時代：愛知県豊橋市庁前に明治7・3に木製火の見櫓建設の記事あり
　　　　　（江戸時代以降、戦後しばらくまでは木製の火の見櫓が主流）
　昭和８年：豊橋常備消防組の設立に伴い、事務所、休憩室、食堂を備えた
　　　　　　鉄骨造大望楼竣工（H=33ｍ、昭和47年まで公会堂東に存在）
　昭和20年代半ば頃〜：各地の集落ごとに鉄骨造火の見櫓が建設される
　　　　　　常設消防設備でなく町内費や寄付により建設　S28:７万円事例
　昭和50年代〜：その役目を終え老朽化等により火の見櫓が撤去されだす

　 ２　東三河地方の火の見櫓
・全国各地の火の見櫓の多様な様式→別紙カラー図版参照（形・構造・飾り・塗装等の違い）
　　　基本形がありながらも、地域的特長のきわだつ地域（例えば岡崎市周辺・遠江地方等）があり
　　　基本的には全く同じものはまず存在しない（別紙静岡県の悉皆調査→類似していても必ず差異）
　　　→タイプの差異とバリエーションの差異（システムの普遍性と技術の多様性→個性ある意匠）
　・東三河地方の火の見櫓集成（現在61基確認）→別紙参照
　　　当地方では設置年月や製造業者名のプレートが残っているものがいくつかみられる
　　　→火の見櫓の時期的変遷や、メーカーによるタイプ差を確認できる
　　　確認できる事例から、建設時の状況を類推する　※考古学的手法に似通う点あり

３　東三河の火の見櫓のタイプ差・バリエーションの背景をさぐる
　�@　時期的変化

　・20年代半ばに名古屋の業者が進出→20年代後半から地元業者が順次成長（業者別の個性の出現）
　・構造上の技術的な変遷はあまり追えない：機能・飾り等何を優先するかの違いのほうが大きい
　�A　発注者側の要請

　・予算や設置場所により必要とする高さが決まる→業者の選択段階でまずタイプが限定される
　・地域のランドマークとして、隣接地区との差別化をどう図るか
　　　機能（ホースかけ等）や飾り（見張り台手摺等）へこだわり→バリエーションの差異が生まれる
　�B　請負業者の技術基盤

　・業者の規模、経験に応じたタイプ・バリエーションの選択肢
　　　職人レベルの技術差・こだわり→具体化する段階で職人の手仕事的な構法
　◎タイプ差の背景にあるもの（地域色とその広がり）
　◎バリエーションの背景にあるもの（総合的に調査・分析しないと歴史は読み取れない）
　　　　　　　　↓
　　確認できる限られた資料から過去を類推する考古学の危険性